神奈川県内の駅徒歩10分、新築木造8部屋。売価1億円、表面利回り6.5%。
フルローンで自己資金はほとんど使わず、手残りは年間約147万円。
「自己資金をほとんど使わずに毎月12万円なら、悪くない話に聞こえるのですが」
こうしたご相談をよくいただきます。ただ、営業資料に書かれた手残りは「今の家賃」と「今の金利」がそのまま続いた場合の数字です。金利が上がったら、1部屋空いたら、そして3年後5年後もその家賃で決まるのか。ここまで見て初めて、買っていい物件かどうかが判断できます。
今回は実際にお預かりした物件資料をもとに、147万円という数字を検証したうえで、この資料そのものをプロの目で診断していきます。「買う」「条件付きで買う」「見送る」の3つのうち、どれなのかまでお伝えします。
目次
今回は、これから1棟目を買おうとされている方からのご相談です。物件の資料もあわせてお預かりしました。
諸費用が約500万円ですので、自己資金として出るのは実質この諸費用分だけ。購入後も手元には1,500万円ほど残る計算になります。
紹介された物件を買っていいのか判断できない、というのがご相談の中身でした。
営業資料の収支は、非常にシンプルに組まれていました。
必要なものは一通り入っているように見えます。実際、間違った数字が書かれているわけではありません。
問題は、長期で持つなら考えておきたい費用が入っていないことです。将来の修繕、給湯器やエアコンの交換、細かな設備トラブルへの備え。新築ですので1年目にはほとんど出ないかもしれません。ただ35年持つのであれば、いつかは必ずかかる費用です。
私はこの90万円の支出に、将来の修繕などへの備えとして年間40万円ほどを上乗せし、あわせて年間130万円を運営に必要なキャッシュとして見ています。
この前提で計算し直すと、手残りは年107万円、月にすると約8万9,000円です。毎月8万9,000円が入ってくると、どうしても使いたくなってしまう金額でもあります。この余白がどれくらい薄いのかを、次から見ていきます。
1つ目は金利です。変動金利は上がる可能性がある、というのは誰でも分かっていることですが、「そんなに上がるものなのか」という感覚をお持ちの方は少なくありません。
2026年6月には政策金利が1%に上昇しました。日銀は最終的に2%から2.5%くらいまでは上げていきたいという考えを示唆しており、今後さらに上がる可能性も考えておく必要があります。
分かりやすく、同じ1億円を35年間借りた場合の返済額に置き換えてみます。
金利の1%はパーセントで見ると小さく感じますが、借入が1億円ともなると金額としては年66万円変わってきます。家賃が653万円のままでも、運営コスト130万円を引いた手残りは年41万円まで落ちます。
2つ目は退去です。賃貸経営である以上、退去は必ず起こります。そうなると満室想定家賃という前提がまず崩れます。
退去が出ると、家賃が止まるだけでは終わりません。
空室期間が長引けば、その物件によっては赤字に転落することすらあります。手残りがどういう前提で作られた数字なのかは、契約する前に確認しておきたいところです。
私がこの物件で最初に気になったのは、満室想定家賃でした。年約653万円と書かれていて、1億円・表面利回り6.5%という数字の根拠はすべてこの家賃から計算されています。
新築ですので、まだ誰も住んでいません。中古であれば実際に支払われている家賃が並びますが、新築のレントロールは売主が設定した希望の家賃額です。全部が想定家賃だということを、まず押さえておく必要があります。
そこで周辺の家賃相場を調べました。周辺の同じような物件は6万3,000円前後。今回の物件は1戸6万8,000円の想定ですから、相場より5,000円高い設定です。
その理由になりうる要素は、資料にも書かれていました。ペット飼育可です。周辺の競合を見ると、ペット可で新築の賃貸物件はそれほど多くありません。新築というだけで希少性があるところに、さらにペットと暮らせるとなれば希少性は増します。新築に住みたい、しかもペットと一緒に住みたいという方からすると、多少相場より高くてもこの物件で決めるしかない、という選択肢になってきます。
では何が問題なのか。この5,000円が、物件価格にいくら乗っているのかという点です。
計算してみます。
月単位では小さく見える家賃の差が、物件価格では数百万円の差になって表れます。買う側としては、その家賃が相場どおりなのか、何かのプレミアムが乗った家賃なのかを確認する必要があります。
そのうえで、その収入は10年後も同じように続くのか、維持するための費用はいくらかかるのか、プレミアム分を除いた通常家賃だけなら利回りはいくらになるのか。ここは分けて見ていくのが安全です。
「新築なら入居は決まるのでは」と思われるかもしれません。確かに新築というだけで決まりやすい部分はあります。問題は退去した後、2回転目以降です。
その時点でこの部屋は新築というブランドを失い、たとえば築3年の中古物件として募集することになります。その家賃設定が適正かどうかを、2回転目の目線で考える必要があります。
そこを判断するために、設備の仕様書をしっかり見ます。駅からの距離も広さも築年数も近い物件と比べたところ、今回の物件は次のような状態でした。
整理すると、相場より5,000円高い家賃を、ペット飼育可という要素だけで支えている状態です。設備面では周辺の類似物件より弱い。2回転目で同じ家賃を維持できる根拠としては、やや心もとないと言わざるを得ません。
退去が起きたときに次の入居が苦戦すると、家賃を下げて決めることも必要になります。そして一度下げた家賃を元の6万8,000円に戻せる保証はありません。
では、下がり切った状態でも回るのか。家賃が相場水準の年605万円まで下がり、金利も3.3%になった場合で計算します。
これは満室での計算です。家賃水準そのものが下がってしまえば、この状態が毎年続く可能性すらあります。
家賃の下落は、売却時の価格にも効いてきます。まず残債から見ていきます。
比較を簡単にするため、金利2.3%の返済条件が10年続いたとして計算すると、10年後の残債は約7,908万円。1億円から約2,000万円減っている計算です。
問題は、そのときの売却価格と手残りです。今回は新築かつペット可という条件で家賃が約5,000円上乗せされており、売価としては700万円ほど割高で買っていることになります。
適正な家賃で買えていれば2,000万円分の残債が減ったことになりますが、700万円ほど多く払っていますので、差し引きでは1,300万円しか実質的に減っていないのと同じ状態です。本来であれば売却時に手残りが生まれるはずのところ、その余裕も削られています。決して余裕のある物件ではない、というのが数字に表れています。
結論として、この条件のままであれば私は買いません。
理由は1つです。この家賃水準を前提に1億円・表面利回り6.5%として提示されているのに、その家賃を3年後も維持できる根拠が弱いからです。
147万円という数字が多いか少ないかは別の話です。その147万円を作っている前提が、この先も続くのかどうか。そこで判断したほうがいいと考えています。
では、どういう条件なら買えるのか。1つは価格です。相場家賃で収支を組み直して、それでも成り立つ価格まで下がるのであれば、話は変わってきます。
先ほどの約740万円は、あくまで家賃差を同じ6.5%で割り戻した参考価格にすぎません。相場に直したうえで、さらに金利上昇や将来の修繕まで入れても十分な余白が残せる価格なのかどうか。そこで判断します。
もう1つは手元の資金です。今回は諸費用を約500万円と置いていますので、フルローンなら購入後も手元に1,500万円ほど残ります。その現金があれば、金利が上がっても退去が出ても耐久力は確保できます。ただし、現金があることと、この物件を割高で買っていいことは全く別の話です。
今回はフルローンで年間147万円が残るという物件を、資料から診断してきました。結論はこの条件のままなら見送り。理由は今の手残りの金額ではなく、その手残りを作っている6万8,000円という家賃が、この先も続く根拠が弱いからです。
営業資料を渡されたら、次の4つを確認してみてください。
表面上の数字は、計算式に当てはめれば誰でも出せます。その数字を作っている前提が続くのかどうかは、資料を読み込まないと分かりません。
今まさに営業資料を渡されて検討されている方は、契約する前に一度、客観的に見てもらうことをおすすめします。弊社の無料個別相談に資料をお送りいただければ、金利上昇時・退去時・売却時の数字に加えて、その資料の家賃設定が適切かどうかを競合物件の周辺相場と比較しながら確認いたします。他社でご検討中の物件でもまったく問題ありません。
なお、本記事の数値は特定の条件を置いた事例であり、収益や入居を保証するものではありません。
金利や家賃相場、金融機関の審査基準は一律ではなく、物件・エリア・時期によって異なります。実際のご検討にあたっては、具体的な条件をご確認のうえ慎重にご判断ください。
私の不動産投資とお客機に対しての向き合い方は、物件購入がゴールでは無いということ。
お客様のご資産背景等により最適な物件は異なりますので、メリット・デメリットをしっかりお伝えして、最適のご提案をさせて頂きます。土地仕入→建築→販売→賃貸仲介→管理の一貫体制だからこそ、実現できる安定した不動産経営をご提案させて頂きます。